逃げるしっぽを追いかけろ

生物学専攻大学院生の趣味ブログ・マイペース更新

『JUNK HEAD』(2017)主人公の体が地下に潜るほど変わっていくの結構好き【映画感想】

元々『ニャッキ』や『ひつじのショーン』を見て育ってきたし、『PUI PUIモルカー』でストップモーションアニメにハマり直したので観ることにした。アマプラ。

gaga.ne.jp

 

多くのキャラに共通しているのだけど、下膨れのほっぺや、眼鼻のバランスが赤ちゃんぽくてかわいい。そんなキャラ達が血を流したり中指を立てたりするのが、ディストピア感を盛り上げている(ここら辺が無理な人には「悪趣味」と感じるのかも。『PUI PUIモルカー』の見里監督がつくった『マイリトルゴート』にも通じる)。

あと、ぷっくり唇も良いけど個人的には切れ込みみたいな口も好みなので、どちらも出てくるこの映画は普通に自分の趣味にハマってた。

 

【あらすじ】

科学技術の発展と引きかえに生殖能力を失っている人間たち。かつて新たに生きる場所を求め発展させた地下施設は、こき使ってきた人工生命体マリガン達の反乱により占領されている。さらに、新種のウイルスが蔓延したことにより、地上の人口は4.5億人ほどに減ってしまう。増殖を続けるマリガン達の体を調べて生殖能力を取り戻すため、地下へ細々と探索者を送り続けるのが人間に残された希望。主人公は探索者の1人として、単身、地下の冒険へと乗り出す……。

 

地下のダンジョンが不気味で楽しすぎる。コンクリが割れる感じとかってやっぱり内装屋さんの経験がいきてるんだろうか。

 

ここから下は一応、読むなら視聴済みの方が良いと思う。

 

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地下に送り込まれた1人の探索者、パートン(上図)が主人公である。元ダンス講師で、人口が激減するまでは虚ろな電脳空間で踊りを教えていた(回想シーンで、生徒の背中のなまめかしさが退廃的で享楽的な感じを醸していて記憶に残った)。しかし、人口激減のあおりを受け、収入と冒険を求めて探索者の仕事に申し込んだのだ。

 

どうやら人間は頭部さえあれば生きていける設定らしく、逆に頭より下の体はいくらでも替えがきくらしい。地下へ潜る途中、兵士マリガンから戯れに射撃されたパートンは体を失ったものの、3バカ兄弟(アレクサンドル、フランシス、ジュリアン)に拾われ、博士マリガン達の尽力で仮初めの体を手に入れる。

ちなみに、マリガンによる反乱からはずいぶん時が経っているらしく、マリガン達の中では歴史がゆがんで伝わって「人間=神」という理解が定着している。だから、主人公は人間というだけでちょいちょい優遇される。この設定にはほんのりとなろう系の匂いも感じるけど、3バカがパートンのポンコツ具合から「神も大した事ねえな」と漏らしたりするので、むしろ過去の対立や「人間=神」という誤認を越えていくストーリーにつもつながり得ると思った。

 

地下では、知性を持つマリガンだけでなく、獣っぽいマリガン達が深海のような生態系を構成している(ワイルドライフみたい、と呟いたらワイルドライフに失礼だろと突っ込まれたけど、普段大きい動物に捕食されてる小さい動物が、大きい動物の死骸に群がるのって凄くそれっぽいと思う)。けっこう生々しい描写が出てくるので、自分は全く構わないのだけど他人と見ていると少し気まずい。

 

リハビリのために3バカの仕事に同行したパートンは、新しい体になじめないまま3バカからはぐれ、さらに深いところへ転落し、再び体を失ってしまう。そこにもマリガンの村(バルブ村)があって、役立たずの機械バカ扱いされている1人の村人が体を再建してくれるのだけど、体のつくりは更にお粗末になり、発話機能も失われてしまう。個人的に、冒険が進むにつれて主人公の体がダウングレードしていくところが結構良かった。様々な能力やスペックを失いつつも逆に心の強さや仲間を増やしていくというのは、物語が進むにつれ主人公が強くなっていく少年漫画展開にばかり接してきた身としては、新鮮だし励まされた。

それと、体が変わっていくってそれだけで面白い。小さいころ、『ぽっぺん先生と帰らずの沼』という本が大好きだったことを思い出した。主人公ぽっぺん先生がひょんなことからウスバカゲロウに転生し食物連鎖の中に巻き込まれる。捕食されるたびにその捕食者へと意識が乗り移っていく目まぐるしい展開に、ワクワクしながら読んでいたことを思い出した。

 

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パートンは、バルブ村で人間と知られることも無く皆から雑用係としてこき使われ(子どもたちがクソガキで良い。ろくな大人にならない気がするけど、こんな感じで村は何年続いてきたのか? と思いをはせたり)、さらに地下へ食料のクノコを買いに行くお使いに出される。

このお使いシーン、絡んできた詐欺師(上図)の結末まで含めてめちゃくちゃ面白いのだけど、字幕がない方がもっと面白かったのではないかと思う。せっかくキャラの見た目と動きからその内面が伺えるようになっているので、字幕で全部説明しないで精々セリフにちょっと日本語を混ぜるぐらいの方がより楽しめた気がした。

 

お使い中に知り合った炎番の設定も個人的に好きだった。実は上のバルブ村の安全に関わる重要な役割を担っているのだけど、炎番はたいして賢くないので自分の仕事の重要性を知らない。村の方は村の方で、炎番のミスから生じる危機に対症療法的な措置は取るが、地下施設の仕組みを完全には理解できておらず炎番の存在も知らないので根本的な問題解決には至らない。

自分のしていることの重要性をわかっていない・自分の命に係わることを理解できていないという歯痒さがあって、特に子どもの頃の自分が観ていたらすごく印象に残る設定だろうと思った。

また、地下に潜るほど文化レベルが下がっていくであろうことも伺え、深みがあって良い。(欲を言うとエネルギー補給の設定をもう少し詰めてほしい。主人公の動力源や炎番を含むマリガン達の食事が描かれるとよりリアルになりそう。クノコシーンがすごく面白かっただけに気になる)

 

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パートンが地下で出会う少女ニコ(上図)は、繁殖のキーになるんだろうな感がすごい。あの髪質とか、生命の木の母体になりますよ!と言わんばかりだ。個人的にはそこまで望んでいないけれど、今後、多少ロマンスも入ってくるのだろうか。

というか、マリガンの村には女型と男型のマリガンがいたけれど、それって形だけで、結局生命の木になった実からしかマリガンは生まれないのだろうか? ここ疑問に思ったので続編に期待。

 

本作の結末は、確かに、オチとしてはちょっと弱かった。「次は具体的にどうするぞ!」というのが無かった気がする。

体が真っ二つになって身体能力を失った主人公が今後どうやって動くか確定して(さらなるダウングレード)、さあ、アレクサンドル達とともに博士のもとorバルブ村に帰ろう! と思った矢先…!? ぐらいの引きで終わってほしかった。わがまま。

けれど、造形や動きや世界観をもっと見たいので、続編が楽しみ。

 

どうでもいいけど、フランシスとジュリアンの最期、思わず「シィーザァ――!!」と叫んでしまった。

血があふれてくるところでもう一度「シーザーじゃん…泣」と。